お母さんは原因じゃない!

電話相談の実例をもとに、根本原因を解き明かしましょう。個人情報保護のため事実関係はいくつか変えています。

娘が原因のわからない不登校に!

新井 「お電話ありがとうございます、新井てるかずです。お電話相談ですか?」

お母さん 「中3の娘加奈子(仮名)のことです。中2の9月から不登校で、もう1年になってしまうんです。9月の始業式に出て、次の日からお腹が痛いからといって、休みました。病院にも行きませんでした。

夜は普通に明日の準備をするんですけど、1週間後ぐらいから「面倒臭いから行かない」って言われました。それから主人は起こすわ怒鳴るわ、あたしも狂ったように"なんで行かないの!"って

小学校のとき、公立はイヤだから私立に行くって言って、私立中学を受験していたんです。周りからもよくできる子だって言われていました。

どんどんやる気がなくなってゆく

中学ではクラブはダンスをやっていて、塾にも通って、もうイッパイイッパイだったんですよ。ダンスでは腰を痛めて、ちょっとお休みして、塾も詰め込みで、わからなくなって止めたいって言い出しました。ダンスではレギュラーに選ばれていたんですけど、痛いのでいかなくなって、合宿にも行きませんでした。どんどんやる気がなくなっていくのがわかりました。

しばらくして「勉強しようかな」って言い出して、それで塾も変えて、またがんばりだしたんですよ。(中略) で、夏休みが終わって始業式の日に、勉強についていけなくなっていたらしく、次の日にお腹が痛いってトイレにも頻繁に入って、「明日は行くから」って支度してたんですけど、次の朝「やっぱりダメ」って。

病院へ行こうと言ったんですけど、「行かない」って。でもテレビを見て元気に笑っているし。で、1週間後「面倒臭いから行かない」って。理由が変わっていたんですね。

きっかけはテストか?

実は夏休みに入る前の期末テストで、成績があまり良くなかったんですよ。それまでずっと上位だったのが、真ん中ぐらいに下がりました。本人は気にしていないといってましたけど、あれがきっかけかもしれません。

学校にカウンセラーがいたのであたしがカウンセリングに通うようになりました。あたしは「これは絶対不登校の始まりです、どうすればいいでしょう」って言ったんですけど、「お母さんが落ち着くのが大事です。様子を見てください」って言われました。

ケータイ依存、昼夜逆転に

ところが娘がケータイから離れなくなったんですよ。ケータイを夜中までやっていて、昼夜逆転になったんですよ。そのときちょうどケータイが壊れたんですよ。すると娘は"ケータイは命だから買って"っていうんです。

それをスクールカウンセラーに相談したら、「命だっていってるんでしょう?何で買ってあげられないんですか」って。

もうあたし目が点になりました。「ストレスがたまると悪い方向に行くからなんでもしてあげてください」って言われたんですね。

でもスクールカウンセラーの先生が間違ったこと言うはずがない、これはあたしたち親が間違っていたんだ、って考え直しました。

買ったらハマル一方だったんですけど、"いずれ飽きてくれるかな"と考えたりして。で、主人と話し合ったんですけど、"わたしたち厳しかったのかな"って。じゃあ今度はやさしくすればいいのかなと単純に考えたんですけど(笑)。」

これを聴いた瞬間私の頭も???でした。このスクールカウンセラーの最悪の助言に従ったことから迷走が始まり、事態は悪化してゆきます。

スクールカウンセラーの助言に絶句

お母さん 「実はこの子が小さいときに離婚騒ぎがあって、かなりもめたんです。子供の目の前でひどい醜態をさらしたこともあります。それで、私たちは謝ったんですけど。

あたしはそのときからパートをしていたんですけど、子供が家でさびしいんじゃないかと思って仕事を辞めたんです。で、家にいると、子供が"これを買ってきて、あれを買ってきて"って。

それもスクールカウンセラーは"子供のいうとおりにしなさい"でした。"なんでも買ってあげないとストレスになるからとにかく子供の言うとおりにして"。」

親は子供の召使いではありません。どうしようもなく最悪の助言です。このスクールカウンセラーは、かけてよい制限のストレスと、かけてはいけない人間関係のストレスの区別が、全くついていません。

お母さん 「結局ケータイにハマって昼夜逆転になって風呂にも入りませんし、自分の部屋でインスタントラーメンばっかり食べるんです。だんだん顔も変わってきて、無表情になったんです。すると、娘は"欲しい物買ってくれたら学校行く"って言い出したんです。

それもスクールカウンセラーに相談したら、"お金をあげてください、子供の目線が大事です"って。あたし絶句しました。

結局お金が続くはずはないのでそう言ったら子供は言わなくなりました。それから児童相談所にも行ったんですけど、相談所の先生は"子供を見守ってください"っていうことしか言わないんですよ。それでここもダメだね、となって。

いったんは学校へ行こうとしたんですけど、朝になるとやっぱり行けなくて部屋に閉じこもって出てこなくて。それで今の学校はダメだから転校しようと考えて、動いていたんですけど「あたしどこも行かない」って言われて。本当に頭抱えました。

娘が無気力に

結局不登校の原因は、娘がよく言ってるんです。"どうして学校行かなくちゃいけないの""なんで生きてるの""生きてゆく目的がない""なんであたし生んだの""学校って何なの"。

今では外出もしなくなりました。本人は"あたしはすぐ逃げる"って。もう何やってもムダだって。

とにかくやる気を出させないと。学校の問題じゃないと思うんですよ。

親が変わらないと、って言われるんですけど、どう変わればいいんですか、って訊くと"それは自分で考えてください"って。

あたしはどうやら子供にとって厳しかったみたいで、過干渉かもしれません。主人はきつい性格なんです。ある人から、子供のことはほっといて、お母さんは楽しく生きてください、って言われたんです。それはわかるんですけど、結局何にもわかってないんですね、私たち。

それで、新井さんに、親はどうすればいいのかお聞きしたくて。」

お母さんはここまで一気に1時間以上話し続けました。スクールカウンセラーがもう少しマシな助言をしていればこんな事態にはならなかった...。

親は原因じゃない!

新井 「では私の考えを述べますね。お父さんお母さんも変わる必要はありません。全くありません。このケースはね。」

お母さん 「えっ、全くない...?」

新井 「小学生の不登校と、中学生高校生の不登校では、分けて考える必要があるんですけど、お父さんもお母さんもそのままでいいです。」

お母さんは納得しないのでしょう、食い下がります。

お母さん 「主人はコレコレこんな風に性格が悪くて、子供への対応もこんな風に迷っていて、あなたのその性格が子供にうつったんじゃないの、って言っていたんですよ。それであるセミナーで親が変わればって言われて....」

このままだとご主人への愚痴が2時間ぐらい続きそうなので、ここで割り込みます。

新井 「あの、よろしいですか?お母さんの過干渉も、お父さんの性格も、子供が学校へ行かない原因にはなりません。

お母さん 「そうなんですか!?」

親の性格も関係ない

新井 「全然関係ないです。お母さんは過干渉を気にされておられるようですね。確かに不登校の子供のお母さんは、過干渉なことが多いです。でも私は今までいろんな過干渉のお母さんを見てきましたが、女性の過干渉は一生直らないです(笑)。

中学生と高校生の不登校と過干渉は関係ないので気にしないでください。お父さんが性格が悪いから子供にうつって、子供が生きる意味がどうのこうの、なんていうのも関係ありません。」

お母さん 「でもある人からすごく責められて、不登校は親の問題でもあるからって。」

新井 「それ全然違う。小学生までの不登校と、中学生以上の不登校は違うんです。この子は中2になってから行かなくなりましたね。

で、小学生が学校へ行かない場合は親にも何かあるのかもしれませんが、中学生以上になってから不登校になった場合は、親を疑う必要はほとんどありません。親が虐待とか折檻をしている場合は例外です。でもこのケースは全然関係ないでしょう。」

幼児期も性格も関係ない!

お母さん 「幼児期もすごく神経質な子だったんですよ。」

新井 「神経質なところとか、生真面目すぎるところとかあるんでしょうけど、性格と不登校は全く関係がないですよ。」

お母さん 「そうなんですか!よく"幼児期に満たされていないから"とかいうじゃないですか。」

新井 「愛情とか関係ないです。それは学者が言っていること。不登校を解決している人間が言っていることではないです。そんなことを言う人は実際に不登校を解決したことがない人だと思います。

もしそれが正しいなら、神経質な子はみんな不登校になりますし、片親の子や、両親ともにいない子もみんな不登校になっちゃいますよ。でも現実はそうじゃないですよね。」

お母さん 「ああ。そういう本を読んだんですけど、学者でしたね。」

新井 「それは発達心理学とか教育心理学の学問の理論に則っているんですけど、不登校の現場で起きていることとは全く関係ないんです。」

お母さん 「そうなんだ。ちょっと安心しました。でもどこへ行っても最後は"親だ"って言われました。」

新井 「そういうところは不登校を解決したことがないところでしょう。そんなことしなくてもちゃんと不登校は解決できるのに。」

親のせいにするのが間違いの元!

新井 「みんなそこのところがわかっていないんです。"親が変われば子供が変わる"って言いますよね、確かに、親は子供に影響を与えますよ。たとえば、いつも明るく元気で、良い言葉がけをする親に育てられた子と、人への愚痴や不平不満しか言わない親に育てられた子は、どちらがいい性格になるか?決まってますよね。」

お母さん 「そうですね。」

新井 「お母さんは"親が変われば"って悩んできたでしょう?じゃあね、たとえばお母さんがマザーテレサのように変わって、お父さんがオバマ大統領のようになったとしたら、加奈子ちゃんは、"やる気出た、あたし明日から学校行くよ!"なんて言うと思いますか?」

お母さん 「(笑)...いわないでしょうね。」

新井 「そうなんです。みんなここを間違えているんです。"親が変われば子供が変わる"という格言の内容が、"親が変われば不登校が直る"に飛躍しているんです。これは違うんです。

親が明るくなれば子供も明るくなるかもしれない。けれども明るくなって学校へ行くかといえば、行かないんです。家では明るく何の問題もない子が不登校です、なんていう話は珍しくありません。

親の存在は、子供の性格とか考え方に影響を及ぼす子育ての問題であって、不登校の問題とは違うんです。

子育ての問題と不登校の問題を混同するな!

不登校の問題は、あくまで学校で起きたことが原因なんです。つまり、子育ての問題と不登校の問題を、分けて考えて欲しいんです。

子供を明るく元気に育てようと思えば親が変わって手本を見せればいい、これが子育ての問題。それと不登校を直すのは別の問題。これをわかっていない学者先生やカウンセラーが、"親が親が"とわめくから、不登校が解決しないんです。

だから、子育ての問題と、不登校の問題を分けて考えると、対応がスッキリするんですよ。まず不登校を解決して、子供の状態が落ち着いてから、子供の性格や考え方の改善に取り組めばいいです。

今、世の中で不登校の解決がうまくいかない原因のひとつは、この対応を混同していることにもあるんです。

ただし、小学生の不登校でも親は無関係かどうかは、私も研究例が少なくて何とも言えないんですが。

親は不登校の原因を作った存在ではありません。不登校の子供にとって解決の力になる存在だと、私は思っているんです。」

"心が弱いから""成績が悪いから"は見当違い

お母さん 「そんな話初めて聴いた。なんかスッキリしました。けど、学校でこうなるのは子供の心が弱いせいだって、心が強くなればいいって...」

新井 「心が弱いっていうのもどうでしょうか。たとえば、お母さんがエベレストに登ったとします。登山パーティーの他のメンバーは屈強な男たちです。そして、頂上に着きました。ところがお母さんは平気ですが、他の男たちは高山病でくたばりかけています。さて、お母さんは男たちに"お前らいいガタイしてるくせに弱いわねえ、もっと強くなりなさいよ"って言いますか?」

お母さん 「言いませんね(笑)。そうか、なるほど。」

新井 「心が弱いって、具体的に何を言っているのかカウンセラーの私でもさっぱりわからない言葉ですね。不登校を生む原因にはならないですよ。

みんなこれもよく言うんですが、"学校が悪い""日本の教育が悪い""文科省が悪い""社会が悪い"とか。

原因もわからないし解決もできないくせに、すぐ話を大きくして抽象的なホラを吹きまくる。不登校を解決できない人の特徴です。」

お母さん 「過去を探るとあんなこともあった、こんなこともあった、ってなるんですけど、改善するにはどうすればいいんでしょうか?」

表面的なことを追いかけるな!

新井 「では私の考えを申し上げますね。まず、親は関係ありません。それに、加奈子ちゃんの表面的な行動とか発言とかを追いかけていると、キリがないんですよ。」

お母さん 「そうなんですよ!」

お母さんは突然大きな声を上げました。モヤモヤしていた霧が晴れ始めたのでしょう。

新井 「これはどういう意味で言ったのかしら、とか、ああ言ったのは本当なの?とか、成績のことがどうだ、とか。理由も、コロコロ変わっていくでしょう?」

お母さん 「はい!キリがないんです!」

新井 「何の原因もないのに子供がそんな風に崩れるのはおかしい。必ず裏にはそういった問題を引き起こしている根本原因があるんです。

それに気づかずに親がどうのとか、子供のやる気がどうのとかいったことを追い掛け回していると、いつまでたっても不登校は解決しないし、子供も苦しいし、親も苦しみ続けるんです。

ですから私たち大人は、子供の苦しみを本当に救いたいなら、表面的な事象に振り回されずに問題の根本原因を見なきゃいけないんですよ。

お母さんは深く同意され、"その根本原因が何なのかわからないんです"とおっしゃいました。

新井 「では、加奈子ちゃんの不登校の根本原因を解き明かしましょう。」

→Part4. 記憶にたまったストレスとは?へ続く


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