記憶にたまったストレスとは?
不登校の根本原因とは?
新井 「不登校専門のカウンセリングを2年間続けていてわかったことがあります。
中学に入ってから不登校になる子は、ほとんどの場合、学校で何らかの強いストレスを受けています。
特に人間関係のストレスです。高校に入ってから不登校になる子も同じです。
加奈子ちゃん、教室かダンス部で何かありませんでしたか?
たとえば教室でいじめられたとか、
仲間外れにされたとか、
何かイヤな目に合わされたとか、
バカにされたとか、
イヤなやつがいたとか、
すごくイヤな先生がいたとか、
クラブで先輩とモメたとか、
そういうことを本人から聞いたことはありませんか?」
お母さん 「あ!ありました。あたしからみれば大した事じゃないようなことですけど。」
新井 「いえいえ、そういう情報が大事なんですよ。どんなことがあったんですか?」
お母さん 「2年になってからいじめられたことがあるんですよ。仲の良かった友達数人から無視されたって泣いて帰ってきたことがありました。それまでそういうことはなかった子なんで、驚きました。理由は言わなかったんですけど。」
新井 「なるほど。仲良しグループから裏切られたんですね。他には?」
お母さん 「それから、ダンス部で物を盗まれたこともありました。」
新井 「何を盗まれたんですか?」
お母さん 「ノートと、ダンスの衣装です。ノートはロッカーに鍵をかけずに入れて置いたら盗まれて。衣装も夏休み前に一式なくなって、青ざめた顔して帰ってきました。」
新井 「物を盗まれるのは他の子も盗まれていましたか?それとも加奈子ちゃんだけ?」
お母さん 「割とひんぱんに物がなくなることが多い学校で、娘以外にも盗まれていたようですけど、娘みたいに衣装を盗まれるのは珍しいですね。」
新井 「目をつけられていたのかもしれませんね。それ以外には何かありませんでしたか?」
お母さん 「無視した子とは元々仲良しで、それがなぜかウチの娘が仲間外れにされるようなことがあったらしいんです。それからメールのやり取りはあったみたいなんですけど、全然...」
新井 「それはいつ頃ですか?」
お母さん 「7月頃だったか、不登校になる寸前だったか...」
私は詳細にお聞きし、お母さんはこれ以外にも自分が知っているクラブの同級生とのトラブルのことを一気に話されました。
新井 「いっぱい出てきましたね(笑)。それですよ、根本原因は。」
不登校になるメカニズムとは?
新井 「では、なぜこういったことで不登校になるのか、そのメカニズムをわかりやすく説明しますね。
こういった悪い人間関係の出来事は、全て強いストレスとして、加奈子ちゃんの脳が記憶するんですよ。
つまり、「対人関係のストレスの記憶」となります。
ところで質問なんですが、人間ってストレスがたまりすぎるとどうなりますか?」
お母さん 「・・・逃げる?」
新井 「そうですね。逃げるでしょうし、逃げられなかったらどうなりますか?」
お母さん 「・・・悪くなる?」
新井「何が悪くなりますか?」
お母さん「・・・心とか身体?」
新井 「そう。身体の調子が悪くなったり、精神が不安定になったりしますよね。
お母さん 「ええ。」
新井 「ここから先は私の仮説です。子供が学校でストレスをためすぎると、脳が無意識のうちに判断すると思うんです。"これ以上学校へ行っちゃいけない、行くと耐えられなくなる"って。」
お母さん 「はい。」
新井 「だから、"この子の腹をわざと痛くして、頭をわざと痛くして、やる気をなくさせて学校へ行かせないようにしよう"と、無意識のうちに判断しているんです。
実際の身体の症状は、その子が元々弱かったところに出やすいようです。加奈子ちゃんは元々お腹をこわしやすい体質だったんではないですか?」
お母さん 「はい!ダンスの大会前になると緊張して、おなかが痛いってよく言ってました。」
脳が無意識に不登校にさせていた...!
新井 「これは全部脳が無意識のうちに判断していることだから、本人はなぜ学校へ行けないのか多分わからないはずですよ。」
お母さん 「そうなんですよ!今までも、"あれ、あたし何で行ってないんだろう"って急に言ってみたり、ケータイでどこかのサイトで調べて"あたしすごいストレスたまってる、なんで行けないの?いじめられてもないし"って言っていたんです。」
新井 「なるほど。よくあることですが、当人には"いじめられた"という認識がほとんどないことが多いのです。それは、子供はつらさから逃れるため、つらい感情をすぐに抑圧するから、と考えられます。
感情を抑圧してしまっているので、そのことと不登校が結びつかず、"不登校の原因がわからない"と、なってしまうのです。
もちろん、すごく強い感情が残っている場合もあります。」
対人恐怖にも原因はある
お母さん 「それからこうも言ってました。"あたし対人恐怖症なのかな"って。外出もしませんし。」
新井 「外に出たがらないなら対人恐怖症はあるのかもしれないけど、それは結果であって原因ではないんです。
対人恐怖になるにはそれなりの原因があります。原因もなくいきなり人がこわい、何ていうことはありません。人がこわくなるのは、過去に何かで人から傷つけられているということです。」
これではやる気は出ない!
お母さん 「ああ。そうなんだ。だから自分でやる気を起こさせる方法を調べたりしてましたね。」
新井 「記憶にストレスあるいはトラウマがいっぱいたまった今の状態で、どんな方法を試してもやる気は出ないはずです。」
お母さん 「やっぱり。大体何をやっても三日坊主なんですよ。じゃあもっと自信を持てばいいとか、学校へ行ってカッコいい彼氏を見つけな、ってそんな問題じゃないんですね(笑)。」
新井 「(笑)それは足の骨が折れている人に、"自信を持てば走れるよ!"って励ましているようなものでしょうね。
勉強は原因じゃない!
お母さん「でも、学校の勉強もストレスですよね。中学受験させて、入った学校で成績が悪いことも、ウチの子の不登校の原因じゃないんですか?」
新井「違うと思います。私の子は恥ずかしながらクラスで成績はビリですが(笑)、ちゃんと学校へ行っています。
勉強や成績のことは確かにストレスですが、不登校にするほどの力はありません。
もし勉強や成績が関連するなら、それは、成績のことをバカにされた記憶や、成績のことで"なんだこの成績は!"などと言われた記憶が原因となります。
ところでお母さんはお仕事は何をされておられますか?」
お母さん「理学療法士です。」
新井「理学療法士の資格を取るのに、どれくらい勉強をするのですか?結構厳しい勉強だったのでは?」
お母さん「2年か3年で、理論と実技を学びました。勉強はかなりハードでしたよ。」
新井「では、一緒に学んだ仲間の中で、"勉強きついからもうやめる"なんてはいましたか?」
お母さん「...いませんでしたね。試験に落ちた人も、いったんやめはしましたが数年後に再チャレンジしていました。」
新井「ですよね。では、お母さんの子供の頃を思い出してください。学校に成績の悪い人、いましたよね。その人達、"オレ成績悪いから学校もう行かない"なんて、不登校になりましたか?」
お母さん「なってませんね(笑)。」
新井「私の子供の頃も、そんなの一人もいませんでしたよ。成績の悪い人のほうが、学校に元気に来ていました。
成績がストレスで不登校になるなんて、そんなのいないんですよ。誰かが考えたウソにみんなだまされています。」
お母さん「誰が考えたんですか?」
新井「それはわかりませんが、まあ、金八先生の見過ぎですよ(笑)。」
原因は記憶にある!
新井「小学生の不登校では断言できないんですが、中学生と高校生の不登校は、学校で起きた人間関係のトラブルが根本原因です。
医学的な原因がある場合や、他に明白な原因がある場合を除いて、中学生か高校生になってから不登校になった子供は、不登校になる前に、学校でこういった人間関係のトラブルを必ず受けています。
そのトラブルが記憶の中にストレスとして積み重なって、脳が無意識のうちに"これ以上学校へ行かせてはいけない"と判断して、頭痛、腹痛、やる気のなさなどを引き起こさせて、学校へ生かせないようにしているのが不登校です。
大人の僕らからすれば大した事じゃないようなことで、ガタガタッと崩れるんですね。いったん崩れると朝起きて頭痛い、お腹痛い、だから休む、そういう症状がずっと続きます。
しかも症状がなくなっても"面倒くさいから行かない"って理由がどんどん変わってゆく。こういうパターンは多いです。
いじめによる不登校も同じ原理(メカニズム)で起こります。いじめによる不登校の場合は原因が明確ですけどね。」
お母さん 「いじめを受けても大丈夫なお子さんもいらっしゃいますよね。それは?」
新井 「人それぞれ性格や考え方が違うように、ストレスに対する耐性もちがうんでしょうね。たった1回いじめを受けただけでガタガタッと崩れる子もいれば、あまり気にせず流せる子もいます。
でも、今は平気でも将来何かの悪影響が出るんじゃないかな。」
お母さん 「そうなんですか。今の学校を転校させようかとも考えたんですけど。」
新井 「転校させようと考える親御さんは多いですね。転校は、ちゃんと準備をすれば成功します。準備っていうのは、勉強と、心の状態と、人付き合いの準備です。これらを良くしておけば成功します。
しかしこういったことをきちんとクリアーにしておかないと、たとえ転校先に何も問題なくても、同じ状態になる可能性が大きいです。
いろんな不登校のお子さんを見ていると、脳は学校を区別していないようですね。"とにかく学校というのは危険だ、行かせちゃいけない"って判断しているみたいです。だから転校先では問題ないのに、なぜかまた不登校になってしまうんです。
この脳の判断をくつがえすには、記憶にたまったストレスを取り除いてやらないといけないんです。」
なぜ不登校児はゲーム中毒、ケータイ依存になるのか?
お母さん 「でも、ケータイ依存になるのは本人のナマケなんじゃないんですか?」
新井 「その問題も大きいですよね。不登校の子供は全く勉強をせず、起きている間はゲーム中毒、ケータイ依存、パソコン中毒、マンガ中毒になります。
不登校の原因が記憶にたまったストレスだと考えると、なぜ不登校の子供がゲーム中毒、ケータイ中毒になるのか、その理由がわかるんです。
実は、最近の脳科学(*)では、パチンコにハマっている人は、パチンコをやっている間は実は脳内が冷静で落ち着いていることがわかっているんです。ストレスレベルが下がっているそうです。
ところでお母さんはパチンコはなさいますか?」
お母さん「いえ、全然しません。」
新井「僕もしませんが、パチンコをしない人は、"パチンコ中毒の連中って、パチンコ中はずっと興奮しているんじゃないか"と思っていますが、実は違うんです。
脳内のストレスレベルが下がり、非常に平静を保っているそうです。たまにフィーバーが来るともちろん興奮するんですが。」
お母さん 「えっ、そうだったんですか。」
新井 「おそらく同じ原理ではないか、と私は考えて、日中起きている間はずっとゲーム中毒の不登校児にたずねてみると、すべての子がこう答えます。
"ゲームをやっている間は何も考えていない。落ち着いている。"
彼らは興奮もしないし、楽しんでもいませんでした。
では、ゲームをしていない間は?と尋ねると、"イライラしている、落ち着かない、なんでオレここにいるんだろうって思っている"という答えでした。言葉に違いはあれ、何を表現しているのかに違いはありません。
これは大人の言葉に直すとこうなります。
「私は今強くストレスを感じています」
つまり、彼らはゲーム好きには違いないんですが、進んで中毒になってやろう、一日中ゲームばかりやってやろう、と考えて意識的に中毒になっているのではないんです。
彼らは脳内がストレスでいっぱいなんです。でもそれを自分では消すことができないし、何がストレスなのかもわからないし、ストレスを感じているということも、子供なのではっきり意識できない彼らは、とりあえずやっている間はストレス感がなくなる(ストレスを表面的には感じなくなる)ゲームをやらざるを得ないんです。
脳がストレスだらけなので、当然思考力が落ちているし、勉強なんてまずムリです。
これはゲーム以外でも、ケータイなどでも同じだと思います。
(これをお読みの方に、喫煙者もいらっしゃるでしょうが、ゲームをタバコに置き換えると実感できると思います。)
だから、ゲーム中毒は、直接には直せません。ゲーム中毒もケータイ依存も表面的な問題なんです。直すには、やはり記憶にたまったストレスという根本原因を解決しなきゃいけないと私は思います。
記憶にたまったストレスをなくしてゆくと、少しずつ机に向かえるようになったり、勉強時間も増えてきます。」
*)勉強にハマる脳の作り方 篠原菊紀著 フォレスト出版、2009年)



