004 原因不明の勉強ギライ 男子中学生 TTさん

(左より新井、お母さん、TT君)
勉強ギライ 中学1年生男子 TTさん
【電話相談】
TT君は都内の私立進学校に通う男の子です。
問題が最初に起きたのはGW明け。腹痛で3日休みました。その時は「電車に乗ったらイヤなことが起こりそうな気がする」といったそうです。学校まで電車で片道1時間半、しかも座れないのでお母さんは"疲れていたのかも"と思ったそうです。
ところが先週からまた「行きたくない」が始まりました。今度の理由は「元々受験したくなかった。親の言いなりになっていただけ」。お母さんがなんとか尻を叩いて行かせていましたが、学校では机でグダーとうつぶせているような状態。
先生も「この状態では...」と、休むことを勧めました。この中学はかなりレベルが高く、TT君は「勉強について行けない」「地元の中学に行きたい」といいます。お父さんはこれを聞いて烈火のごとく怒り、「甘ったれるな、けじめをつけろ、3月いっぱいは行け」と言い聞かせました。
今はちょうど春休みの時期です。"新井がカウンセリングを行ってムリなら地元の公立へ転校"にご両親は傾いていました。当人は今は家でゲームばかり。パソコンの動画サイトを見てゲラゲラ笑っているそうです。
それ以外にも勉強への取り組みについてお聴きして、電話口で私は断言しました。
新井「お母さん、それ全然違いますよ。勉強のことは原因じゃない」
お母さん「えっ」
誰でしょうね、こんなウソを広めたのは。
みんな"勉強や成績がストレスで不登校になる"という常識を信じ込まされています。
たしかにTT君にとってこなせないほど大量に出るという宿題や長時間の通学は、もちろん負担でしょう。
しかしこのウソに騙されて、もし何の適切な解決策も講じずに地元の中学に転校させたら、TT君はちゃんと登校したでしょうか?
勉強のことでグダーとなったり、腹痛になったり、なんておかしい。しかも本人の言うことがコロコロ変わる。成績がストレスなら、勉強をしていない今はまともになっているはず。でも実際はゲーム中毒。
あなたにはその陰でうごめいているものが見えませんか?
私はお母さんに尋ねました。するとやはり。出てきました。
「学校でTT君のモノがよく失くなる」のだそうです。文房具、ノート、工作の提出物、etc...「これなくなっちゃったんだよね」と彼は言ったといいます。
はなはだしいのは、夏休み前に彼の体操服が一式全て失くなったことです。結局買い直しました。ところが夏休み明け、使っていないロッカーから発見されたそうです。
「窃盗か。なるほど、こういう対人関係のストレスもあるんだな...」
この学校では窃盗が頻繁に起こるというのです。ゲームを盗んで金に変えて捕まり、処分を受けた子もいたそうです。
TT君が特に標的になっていたのではないかと疑いましたが、お母さんによるとそうでもないが、確かに多いとのこと。加えて学校の先生には全く心を許しておらず、不信感があるように見えるようです。他に対人関係のストレスがあるのかどうかはわからない、とのこと。
【第1回目カウンセリング】
私がご自宅へ。お母さんは1ヶ月ほどの子供の行動・発現・様子をまとめておいてくださいました。また、お父さんも単身赴任先から戻っていらしていました。
TT君は私に注意を払いません。死んだ魚のような表情です。
TT君と話します。
まずGW明けの腹痛から。腹痛と頭痛を訴え、学校を3日休みました。4日目もイヤでしたが、東京駅まで来たところで「やっぱりここまで」となり、お父さんと電話してその日は学校へ行かず帰りました。
お父さんはその日の昼過ぎに戻ってこられ、2人で散歩した後、励ましました。「人間一人の悩みなんて小さい」
次の朝TT君は「う...」となりかけましたが、頑張って登校しました。「電車に乗るとイヤなことが起こりそう」というので早起きして朝始発の便に変更。
そして2週間前、学校へ行きたくない、と訴えました。TT君はこういいます。「ずっと受験のことがイヤだった。塾は別に良かったんだけど、"受験のためのクラス"に入れられたのがイヤだった。」
親にイヤだと伝えたのか尋ねると「説き伏せられるからムダだと思っていた」。
お母さんはおっしゃいます。「主人の仕事で転校が多かったんです。中高一貫校に入れて、転校しなくてもよいようにしてやりたかったんです」
お母さんがまとめておいてくださった彼の発言「やっぱり今の中学にはついていけないみたい」に水を向けると、「こんなこといったっけ?」。わずか5日前に自分が言った不登校の理由を憶えていないのです。
昨日はお父さんと学校へ行き、相談室の先生と話をしました。相談室の先生は「とりあえず学校へ来て相談室にいなよ、勉強しなくていいから。中学の間は成績は気にしなくていい」と言われ、TT君はうなずいています。
☆行きたくない理由がコロコロ変わるのは、不登校の子供によく見られます。挙句に「あれ、自分はなんで学校へ行っていないんだろう」と言い出す始末。なぜか。真の原因がそこにないからです。☆
さて、本丸を攻めます。「君の物がいくつも盗まれたんだよね。それ教えてくれる?」
TT君は淡々と教えてくれました。
彼の私物で失くなったのは文房具、体操服、ピンホールカメラ(理科の工作物)、ゲームのメモリーカードです。
まず、ロッカーに入れて置いた問題集が失くなりました。他の子も、ちょくちょくノートが失くなっていたそうです。
体操服は1学期終わりに失くなって、2学期の後半に空きロッカーから見つかりました。ただ、TT君は"掃除で動かしたから自分の不注意かも知れない"といいます。
ピンホールカメラが盗まれたのは、犯人が自分の作品として提出したかったのかも知れない、ともいいます。
3学期はTT君は何も盗まれていません。周囲でも被害は聞いたことがないそうです。
周囲の友達の物で失くなったのは文房具、ノート、携帯、ピンホールカメラ、PSP*)です。クラスの約半数が窃盗の被害にあっていました。
周囲の子は、メモリーカードなどはしょっちゅう盗まれていました。金銭は、おそらく頻繁に盗まれています。誰かの財布から1万円盗まれたこともあったそうです。
友達のPSPが盗まれたときには、クラスのN君が目星をつけられ、実際そのとおり。彼は捕まりました。
☆さて、窃盗被害はストレスになるか?
私の答えは、もちろんイエスです。非常に悪質なストレスになる、と私は考えます。当人がそのことを今どう思っていようが、感情があろうがなかろうが。☆
次に窃盗以外の人間関係のストレスについて質問しました。
すると、挙がったのは5人。全員学校関係者です。塾の人間関係は問題なし。
・技術のT先生・・・人格がイヤ。何がイヤかというと、
①軽く言っているつもりのことがグサッと刺さる。
②思い込みが激しい。「オマエ俺につばを吐いただろう」と、ある生徒を小一時間も説教したが、実は濡衣だった。ところが濡衣とわかったのにT先生は謝りもしないで立ち去った。
・数学の先生・・・教科書に書いていることしか言わない。
・数学の図形のY先生・・・副担任だが、HRも最後の2-3分しか来ない。しかも生徒が必要な話をしているのに"うるせえっ"と怒鳴る。
・ラジオ部の先輩・・・TT君が所属していたクラブです。パソコンでゲームを作る活動をしているのですが、新部長と先輩が、"自分がルールを破っているのに棚にあげて、他人にはルールを守れと平気でいう"性格。
窃盗の記憶から取り除きます。
まず最初に盗まれたのは問題集です。廊下のロッカーに取りに行ったら「ない」。家に帰って確認しても「ない」。この時盗まれたと気づいた、とTT君はいいます。
これは、まずロッカーの中を見た場面の映像の記憶からです。この場面の映像の記憶の鮮明度は10点満点で10点。つまり、この映像を今目の前で見ているように記憶していたのです。そして、そのことを思い出しても感情はありません。
☆これが不登校を引き起こす記憶の特徴です。ストレスフルな場面が鮮明に保存されていて、しかも思い出しても感情がない場合が多い。☆
この映像の記憶の鮮明度は、トラウマのアルゴリズムを3回繰り返して0点になりました。
家に帰ってからのことは、映像の記憶は残っていませんでした。その当時は、「ないのか、残念だなあ」と思ったようです。今はその感情も残っていません。
次は体操服です。壁にフックで掛けてあったのですが、夏休みの前日に洗濯のため持って帰ろうとしたら「あれ、どっかいっちゃったなあ」。この場面の映像の記憶の鮮明度は6点。トラウマのアルゴリズムを1回行って0点に。
体操服が見つかったのは2学期に入ってすぐで、見つけたときは絶対自分のミスだと思ったそうです「ああ、あった」。この体操服を見つけた場面の映像は鮮明度が5点。トラウマのアルゴリズムを2回繰り返して0点に。
本当に体操服が失くなったことに対してなんとも感じていないのか?疑問に思った私は筋診断でチェックしましたが、身体には若干トラウマの反応が出ます。
次にピンホールカメラ。2学期の半ば、机の中に入れてあったのが、次の日朝見たらありませんでした。「あっ、ない」。失くなったのではないな、とわかったそうです。思い出してもやはり感情はありません。盗られたのがわかった朝の場面の映像の記憶の鮮明度は5点。トラウマのアルゴリズムを2回繰り返して0点に。
最後はメモリーカードです。帰宅途中電車でゲームをしようとバッグからPSPを取り出したら、PSP本体に差しっぱなしにしているメモリースティックだけが失くなっていました。本体には被害なし。思い出しても感情はやはりありません。この場面の映像の記憶の鮮明度は2点。トラウマのアルゴリズムを1回行って0点に。
窃盗犯のN君についてどう思うか訊くと、「アホなやつ」。特に感情はありません。N君のことを考えながらトラウマのアルゴリズムを1回行いました。
N君の顔の記憶の鮮明度は5点。「悪そうな顔。声は思い出せない」。トラウマのアルゴリズムを1回行って0点に。
友達のPSPが盗まれたことに対しても、「あ、そ」と、感情がありません。これに関してはいくつかの角度からトラウマのアルゴリズムを行っておきました。
次は先生です。技術のT先生から。濡衣の事件から扱います。思い出すと感情は「最低なヤツ」。最低度を点数で表すとD=6。これはトラウマのアルゴリズムを2回行って0に。
T先生に対する感情は、「あの人の近くに行きたくない」。点数では表すのが難しいというため、"半径何mまでなら近づいてもいい?"という質問をしたところ、「3mぐらいまで」という答えに。
トラウマのアルゴリズムを1回行って「半径何mかはわからなくなったけどしゃべらなければどこでもいい」。
T先生の顔の映像の記憶の鮮明度はv=4。トラウマのアルゴリズムを1回行って0に。T先生の声の記憶は思い出せないそうです。
最後にT先生自体のことを思い出しながらトラウマのアルゴリズムを1回行っておきました。
ここで1回目のカウンセリングは終了。
【第2回目カウンセリング】
2回目のカウンセリングは図形のY先生からです。関係の無い場面で「うるせー」と怒った出来事から。その場面の映像の記憶の鮮明度はv=6。トラウマのアルゴリズムを2回繰り返して0に。「うるせー」の声の記憶の鮮明度はA=2。トラウマのアルゴリズムを1回行って0に。Y先生の普段の顔の記憶の鮮明度は、「もうなくなった」。
他の先生に関しては特に感情もなく、悪影響もなさそうなので放置*)。
次はラジオ部のT新部長です。T新部長を思い出すと、出てくる感情は「ざけんな」で、D=6。トラウマのアルゴリズムを2回繰り返して0に。T新部長の顔の記憶の鮮明度はV=5。声の記憶の鮮明度はA=4。顔はトラウマのアルゴリズムを1回、声は2回繰り返してそれぞれ0に。
人間に関して一通り終えると、次は受験勉強のことです。
勉強のことについてストレスを聞き出すと、
・塾を進学クラスに勝手に変えられたこと
・受験はイヤだったけど親に言ったところでナンダカンダと言いくるめられる
・両親ともに「受験をやれ」と命令してきたこと
☆注意して下さい。TT君は勉強自体がイヤだとは言っていません。これらは対人関係のストレスです。☆
進学クラスに勝手に変えられたことを思い出すと、「そのやり方は理不尽じゃないか」という思いが出てきます。D=2でしたが、トラウマのアルゴリズムを1回行って0に。
進学クラスでは1日3-4時間勉強していたそうですが、特に印象に残るようなことは何もなかったようです。そこで、進学クラスで勉強している自分の姿の映像の記憶が残っているかを確認すると、なんとV=8でした。これはトラウマのアルゴリズムを3回繰り返して0に。
他に小学生時代の両親へのわだかまりについてたずねましたが、「何か理不尽、納得できないことを言われた気はするが憶えていない」とのこと。トラウマのアルゴリズムを2回行っておきました。
他に今の中学での成績のことに焦点を変えましたが、やはりTT君とお母さんの考えは食い違いを見せます。
「今の中学に入ってすぐのテストが振るわなかったことを気にしていた」とお母さんは言いますが、TT君は「そんなことはない」と反論。テストの成績はお母さんがいうほどには気にしていません。
期末テストで学校で落ち込んでいたそうですが、「動く気力が失くなっていた。やる気がなかった」といいます。
気力に関しては、多少はTFTで戻すことができるときもあります。やる気とは、物事全般に対するやる気のことです。TFTの抑うつのアルゴリズム、昼夜逆転のアルゴリズム(眠気が強いため)、筋診断を組み合わせて全般的なやる気は元通りに。
しかし、勉強に対するやる気は0です。これは、先生に「やんなくていいよ」と言われたためです。この指示に反して私がやる気を戻すことはできません。
この4日後に先生に会うそうなので、この指示を解いてもらうことにして、2回目のカウンセリングを終えました。
【第3回目カウンセリング】
10日後に3回目のカウンセリングを行いました。この回は気力を重点的に扱うことにしていました。
先生と話しをして、宿題をすることと4/1に登校する(自習のために)こととしたそうです。心療内科の先生は薬を飲むように指示します。トレドミンという薬を飲んでいますが、TT君には効果は感じられず、"心療内科に行く必要あるのかな"と感じていました。
4/1に行くということですが、TT君は「教室には問題なく入れる」とこちらの心配を覆すセリフです。しかし全般的な気力を確認すると、前回と同じレベルに下がっていました。これはTFTの抑うつのアルゴリズムでまた戻したのですが、勉強に対するやる気のなさは相変わらず0のまま。
勉強は科目に関係なくやる気がありません。では塾は?と問うと、塾はあまり進んでいこうとは思わないけどOKのよう。
どうもおかしい。こういう場合は過去にやる気をうばわれる言葉をかけられたか、それに類する記憶があるはずと私は考えます。
これについてTT君に尋ねると、「言われたような気がする。イヤミっぽくではないけど。誰かははっきり思い出せない」。
それは大体いつごろなのかもTT君はぼんやり憶えていて、小学校でも中学校でも「こんなんで大丈夫なの?」みたいな感じのことを言われたような気がする、と言います。
徐々に記憶が浮かび上がってきましたが、いつどこで誰がどんな状況で、という詳しいことは思い出せません。
ここでお母さんが「口調からいってあたしか父親じゃないか」と名乗りを挙げました。
"中学受験の1ヶ月前から、夜11時まで頑張らせて下さい"と塾から指導があったのですが、TT君は眠くてそこまでもちませんでした。
それに対してお母さんは他の子と比較し、
「TTは最後まで目の色が変わらなかったね。なのに合格したね」
「中学受験で燃え尽きた子はダメになるけど、TTは余力を残しているから中学に入ってもがんばれるよね」
と声をかけていました。
・・・なんとも微妙な意味合いのセリフです。TT君は実際夜10時で寝ていましたし、お母さんのセリフはこの2つとも憶えていませんでした*)。しかし悪影響も感じられるのでそれぞれトラウマのアルゴリズムを1回ずつ行っておきました。
しかしTT君は"こんなんで大丈夫なの?"というセリフを思い出すと、「誰がやらしたんだよ」という憤りが出てきます。この憤りはD=5。トラウマのアルゴリズムを2回繰り返して0になりました。
お父さんも相当尻を叩いたそうですが、TT君は個々の出来事は憶えていません。これについてもトラウマのアルゴリズムを2回行っておきました。
以上は小学生の頃のことですが、中学の時にも何か言われたけど、何を言われたのか、誰にどんな風に言われたのかは思い出せません。言われた回数もです。
これについてはトラウマのアルゴリズムを2回行っておきました。
ここで勉強のやる気のなさは0。TFTを試しましたが、0のまま。ということは、まだ何か残っていると考えられます。
そこでお父さんの叱責を扱います。TT君が学校へ行きたくないと言ったとき、お父さんからかなり激しく叱責されました。「ふざけるな、甘えるんじゃない!そんなことで将来どうするんだ、オレの代わりにお前が働け!」こういうお叱りを電話で2回受けています。
各日のお叱りに対してトラウマのアルゴリズムを2回ずつ行っておきました。それでも勉強のやる気になさは0のまま変わりません。ただ、4月から学校へは行くとは言っています。
ここで3回目のカウンセリング終了。お母さんには「今やれることはすべてやりました。後は4月を待ってください。彼は行くと言ってますし」と伝えました。
【結末】
それから3週間後、お母さんからメールを頂きました。
「あれからTTは元の中学へ少し行った後、地元の中学へ転校しました。今はすっかり明るくなって学校へは問題なく行っています。勉強へのやる気も徐々に取り戻しました。それにしてもよくわからないのが、元の中学の友達のところへ遊びに行っていることです。あれほどイヤでやめた中学なのになぜなのでしょうか」
とのことでした。
なお私はTT君に「学校へ行きなさい」「元気を出しなさい」などの言葉は一切していません。お母さんに「こういう言葉がけをしなさい」「こう接しなさい」などのアドバイスもなしです。
【重要ポイント】
・親は問題が起きたときに解決策を求めて素早く行動した。それが効を奏した。
・勉強ギライ、成績のことは囮。その裏には対人関係のストレスが潜んでいる。
・親が勉強を強要したりやる気を無くす言葉をかけると、不登校になってから勉強のやる気がゼロになる。
・一旦やる気がゼロになると(その場では)元に戻すことができない。
*)ソニーの携帯ゲーム機
*)これは今ではよくありません。徹底的にやっておくべきことです。
*)親が与えたネガティブな言葉は、他人からの言葉より記憶に残りにくいということです。
*)このカウンセリング経験も、「一旦完全に気力がゼロになったらもう元には戻せない」という考えの元になっています。




