006 極度の対人嫌悪 女子中学生 SOちゃん
人間嫌悪 中学3年生女子 SOさん
SOさんのカウンセリングは現在も続いています。私の最長記録です。彼女が中3の5月から始め、おそらく2年間ぐらいは継続するのではないかと思います。それぐらい、SOさんは多くの人間から傷つけられてきました。
ですがあまりにも長く、あまりにも彼女を傷つけた人間が多いため、かなり端折った形で要点を書かせていただきます。
SOちゃんがお母さんに連れられて私のカウンセリングを初めて受けたのが、彼女が中3の5月でした。すでに完全不登校。主な訴えは「学校イヤだ、行きたくない、人がこわい」でした。
お母さんはSOちゃんが受けてきたストレスを概略把握されていました。お母さん自身にも小学生時代にトラウマがあり、前へ進めなかったことがあったそうです。対処はできたが、やっぱり残った、と。しかし娘はどうみても自力で対処できないタイプ。それで、他と全く違う考えをもつ新井のカウンセリングを受けることにした、と後に仰いました。
初回カウンセリング時のSOちゃんの状態のヒドさは印象的でした。
部屋の外を通る人にもおびえ、「近くを何かが横切った」などというようなことも言い、建物自体が温度差で軋む音に「ひゃ...」とおびえ、小学生時代のストレス源を聴き出している段階で気分が落ち始め、みるみる表情が死に、うなだれる。
彼女の感覚は健常人は理解出来ないでしょう。外の世界は彼女にとって人喰虎の檻のようであったろうと思います。
「こりゃイカン」と話を中断し早速記憶除去に入りました。小学生時代の記憶から。
2回目カウンセリングでは不登校のピラミッドを書いて、なぜ今の状態が起きたのかを構造的にわかり易く説明しました。SOちゃんは後に「あの時の説明はちゃんと理解できましたよ」と言ってくれました。
それから8月半ばまで、週1回のペースで小学生時代の記憶を除去し続けました。この間の改善は一進一退。非常にスローペースでした。
頭痛、腹痛を度々引き起こし、その度に中断し休憩を入れ、時に"筋診断"という技術で頭痛腹痛気持ち悪さなどを直接除去し、あるいはタッピングで2時間近く眠るので、折りたたみのリクライニングチェアーを私が持ち歩き持参するようになり・・・。
お母さんは後にこう仰いました。「今まで何を言っても何を聞いても、"うーん..."とうなだれているだけで返事もできなかったのが、初回カウンセリング後、初めて"〇〇はイヤ"とハッキリ意思表示をしたんです。"あ、この子は変わる"と感じて、"頑張って受け続けよう。良くなるから。大丈夫だから"とSOを励まし続けました」
SOちゃんはお母さんの言葉には素直に耳を傾け、反抗しない性格だったそうです。
3回目のカウンセリングのあたりから、ドンヨリしたSOちゃんの眼に光が戻ってきました。顔の可愛さが引き立つように。
そして7-8回目のカウンセリングのあたりから、お母さんに連れられてほんのわずかずつ学校へ行くことができるようになりました。
といっても人を怖がるのはまだ残っており、おびえながら保健室でほんの僅かな時間を過ごすか、吹奏楽部で練習して、即帰ってくる、という程度です。
10回目のカウンセリングあたりから、お母さんがいなくともひとりでバスに乗り、登校を開始。しかし学校ではまだまだダメ。教室には入れません。
教室には非常に悪質ないじめっ子2人(男子)がおり、SOちゃんを特に徹底的に攻撃してくるというのです。先生から注意されるといじめた子を逆恨みする(「オマエがチクったからだ」)ので手に負えません。
SOちゃんの支えは吹奏の夏のコンクールです。彼女の楽器はベース(弦バス)。彼女が欠けると困ったことになり、顧問の先生らからも復帰の誘いがあったようです。
結局お母さん、保健の先生、私の間で「教室には入らなくても良い。保健室登校で良い」という合意ができました。
夏のコンクールは県大会で惜しくもダメ金。ダメ金とは、金賞だけど上位大会(東北大会)へ行けない金賞のことです。
また途中で中学のいじめっ子2人の記憶除去を入れたりもしていました。クラブ活動に出ると、学校の構造上どうしても彼らに姿を晒すから、だそうです。
夏のこのあたりで、SOちゃんのカウンセリングの進みが遅い、記憶除去が遅いことを私が気にし出しました。元来の目論見は年内にすべての記憶除去を終えることだったのです。
そこで様々な方法の検証をSOちゃんのカウンセリングで行い、現在の記憶除去の法則を完成させました。つまり、それまで私の方法は効率の悪い除去法だったのです。また、記憶への意識の正しい集中法、鎖骨呼吸法と新井式アルゴリズムもSOちゃんとのカウンセリングで有効性を確認しました。
そして小学生時代の記憶除去を中断し、幼稚園時代に戻ってストレスを洗い出し、扱うことにしました。お母さんによると、SOちゃんは幼稚園時代にすでに「幼稚園ヤダ、行きたくない」があったそうです。
洗い出すと予想通りかなりのストレスが。幼稚園時代に強いストレスを受けた子は、後に深刻な状態になる可能性が高いことが経験的に確認できました。
10月ぐらいに幼稚園時代の記憶のクリーニングを終え、再び小学生時代の記憶にとりかかります。
このころからSOちゃんは市の運営する「チャレンジホーム」というフリースクールのような施設へ行き始めました。チャレンジホームでは良い友達ができたようですが、度々ロクでもない男子に遭い、ストレスをここでも受けてしまいました。もちろんそれは私がすぐに除去したのですが。
そしてやっと11月末に小学生時代を終え、中学生時代に入りました。始めに、中学で彼女にストレスを与えた人間を一通り書き出します。すると中学の3年間で彼女にストレスを与えたり、傷つけた人間はなんと33人にも。先生も3人含まれます。あきれました。そしてこの数は、私が今後丁寧に掘り起こしてゆけばもう少し増えるでしょう。
でも、やるしかありません。彼女に最適な方法は、記憶をキレイにしてあげること。どんなに時間がかかっても、丁寧に一つ一つ取り除いてあげます。これはSOちゃん、お母さん、私の間で確認され、明確でした。勇気づけたり励ますのはその後です。
実はSOちゃんはある著名な大学教授のスクールカウンセリングを受けていましたが、全く改善されずかなり以前に止めていました。というよりこの先生、カウンセリングでは「好きなものは何?」などと聞くだけだったそうです。
リソース探しは不要。リソースは記憶がキレイになると自然に発動します。SOちゃんはベースのレッスンだけは休まず続けており、この頃には音楽への志向を明確にし始め、音大受験や音楽で身を立てる夢をしばしばクチにしています。後に彼女は「音楽だけはあきらめたくない」と言いました。音楽談義は私も好きなので、2人でこの話は本当に良くしました。
この11月頃には人間嫌悪と対人恐怖はかなり薄れていました。また年末には学校に対する抵抗感が薄れてきたことを実感しています。なお私はまだ彼女の対人恐怖は直接消していません。そして行動も、部活のラストパーティーに出るなど、改善を見せていました。
しかし勉強はまだ手につかず、教室にはまだ入れません。まだ不安定な面があり、外乱によってすぐ落ち込むことも。ただ落ち込んでも、5月頃のような常におびえているような状態にはもう戻りません。
身体の方は、カウンセリング中の睡眠が減り、頭痛腹痛はほとんど起こさなくなりました。以前は毎回2時間以上眠っていたのが、1時間以下に。
私はこの頃にSOちゃんが演奏する吹奏楽部のサヨナラコンサートを私の娘と聴きに行きました。市の音楽館大ホールで、大勢の聴衆を前に堂々とベースソロを披露。ちなみに結構上手でした。以前ならこんな大勢の前での演奏はもちろん、ホールに居ることすらできなかったでしょう。
1月年始には学校の実力テストと塾のテストを受けました。学校のテストは1年ぶりで、お母さんによると「テスト漬けだったけど特に悪影響はありませんでした。疲れは見られましたがケラケラしていました」だそうです。
1月半ばには一期で普通高校を受験、見事合格。二期は不登校対応型の高校を受験、これも合格。前者はSOちゃんの精神に壊滅的なダメージを与えた女の子が進学することや、現在の学力、将来の進路などを家族とも熟慮の上、後者へ進学することに。
しかし2月に入るとやる気が落ちて学校は再び休み始めました。行く理由がなくなった、というところでしょうか。チャレンジホームにはちゃんと行き続けています。
しかしこの頃にまた変化を見せています。
SOちゃんの学年には当然他にも不登校児がいます。その中でSOちゃんが親しかった男の子に私のカウンセリングを紹介し、受けさせようとしたこと。彼は、ある女の子から徹底的な嫌がらせを受けたこと(その一部始終をSOちゃんは知っている)で身体に不調をきたし、かなり休むようになりました。私の技術なら解決は容易いことを実感したのでしょう。(残念ながら彼は来ませんでしたが...。)
もうひとつは、SOちゃんのクラスのいじめっ子男子2人に、怒りや排除の感情を見せ始めたことです。
「私が教室に入れないのは、あの2人がいるからだってクラスの人達に教えたい」
「大勢で取り囲んで叱れば反省するんじゃないかな」。
これは小さい変化ですが、大きな変化の第一歩だと感じられました。
最後に数字を出すと、
幼稚園時代に彼女にストレスを与えた人物は6人、うち1人は先生
小学校時代に彼女にストレスを与えた人物は13人、うち3人は先生
中学時代に彼女にストレスを与えた人物は33人、うち3人は先生
特に中学時代は中1から中3まで3年間もSOちゃんに「クラスの女子から嫌われてるよ」などと吹き込み続け精神を壊滅状態に追い込んだYMちゃんと、中2から中3まで事あるごとにSOちゃんに言葉の暴力を浴びせてきた2人の男子が特筆されます。
中学時代は最終的に40人近くになるのではないかと予想しています。
【結末】
・徐々にではあるが再登校は可能になった。高校にも合格。高校通学はさほど問題ないと思われる。
・精神面での改善は著しい。人をむやみに恐れず、行動に制限はかなりなくなった。
・体調面も安定さをキープしている。
・しかしカウンセリングの遅れ、ストレッサーの多さによって中学時代のストレス除去が間に合わず、勉強に対してもまだ気力(意欲)の回復は充分ではない。
【重要ポイント】
SOちゃんのカウンセリングで痛感したのが、「不登校は心の問題だ」という間違った常識をすべての人間が信じ、教育者ですら信じ切っているということです。
誰一人、真の原因に気づいていない。
特にSOちゃんの中学の先生は無理解でした。なぜ健康体のSOちゃんが学校へ来られないのか理解できず、SOちゃんがクラブに少しでも顔を見せる度に難癖をつけています。甘えじゃないと何度お母さんが説明しても理解不能、こんなことまで言い放ったそうです。「お母さん、僕ならひっぱたきますよ」。
何様のつもりだ?
SOちゃんのスクールカウンセリングを行っていた大学教授ですら、彼女が苦しんでいた過去の記憶には一切触れようとしていません。このセンセイはあるセラピーの世界で有名なのですが...
お母さんは先生方の無神経な対応を常々嘆いておられました。私がせっかくSOちゃんの調子を上げたのに、わざわざ要らぬストレスを与え落ち込ませる真似を度々されたからです。
なぜ教育の専門家が不登校児に無神経な対応をするのか?
正しい知識がないからです。
心という視点のみで考えると、SOちゃんの行動は甘えか怠け、規律欠如としか理解できず、必ず対応を誤ります。
現代の脳科学はこの考え方を間違いだとし、ハッキリ否定しています。
「神経科学」という専門書に、精神療法に関して次のような記述があります。
「しかし、精神疾患の"責任(原因)"が個人の道徳上の問題から幼少期の経験に移ったにもかかわらず、精神療法は、精神疾患が(身体の疾患と対照的に)意志の力のみで克服できるという間違った考え方に力を貸してきた。」*)
私はこの一文に最大級の賛辞を送ります。
精神疾患も身体疾患も、原因・過程・結果があり、いずれも意志で制御は不可能。
記憶がもたらす悪影響は、意志によってコントロールできないのです。
したがって、不登校は意志の力では克服できない、ということです。
SOちゃんの不登校も人間嫌悪も対人恐怖も様々な変化も、記憶という視点で考えなければ絶対に理解できません。
記憶の視点での考え方は、第四章で詳述します。
*)神経科学 西村書店 2007年 p516
不登校を精神疾患と呼ぶことに抵抗があるかも知れないが、文脈上身体疾患の対義語として様々な精神状態の悪化を指しており、不登校を含めても問題ないと考える。
ひとつ建設的な提案を。"幼少期の経験"という言葉を、"幼少期の記憶"に替えると、より因子が明確になります。



