015 抑うつと強迫神経症、離人症 女子高校生RUさん

【電話相談】

RUちゃんのお母さんからお電話をいただいたのが9月頭でした。いきなりハードボイルドな話が始まります。

RUちゃんは中2の10月に親の前で泣きました。
「現実感がない」と。
「自分は他人と違う。現実が現実じゃない。膜がある」。
離人症か。

自転車で誰かを傷つけるんじゃないかという加害妄想、汚い雑巾を投げつけられるんじゃないかという被害妄想までありました。

そのため精神科でデプロメールをもらい、1年半で「現実感がない」という感覚は治りました。中1での休みは1日だけ。

中3に入って体調不良(頭痛と休日の昼夜逆転)が始まります。それでも中3では7日のみ休み。ナントカ受験は頑張って合格。

高1に入り5月、勉強合宿の1週間前から「行く自信がない」と、飲み忘れのデプロメールを2シートもイッキ飲みするように。そして合宿から戻ると体調悪化。パッタリ不登校に。医師からも飲み方を注意されましたが、結局病院を変えました。

現在の状況ですが、

劣等感がヒドイ・・・自分はダメ。取り柄がない。周囲はしっかりしているのに。勉強が苦手。
自己嫌悪が酷い・・・自分なんて消えて無くなりたい。
対人恐怖・・・特に同級生に対してです。
昼夜逆転・・・今朝は7時に寝たそうです。
食欲が無い。・・・健常人の1/3ぐらい。

まだまだ挙げればキリがないくらいの重い状態です。

心療内科以外にも東京の著名な心理療法指導室で「潜在意識に良い言葉がけをする」療法を20回以上受け続けたが、全く効果はなかったとのこと。


さて、重要なキーワードが出てきました。離人症です。

正確には離人症性障害といい、DSM-Ⅳの説明はイマイチよくわからんので私なりに説明すると、

「自分と外界の間にガラスの分厚い壁がある。外界を現実ではないように感じる。自分が生きているのが現実ではないように感じる。外界をテレビを通して見ているように感じる。これらの感覚が耐え難いほど苦しい」

というものです。これをお読みのこの症状のない人には理解し難いでしょうが、当人にとってはこの感覚がものすごく苦しいのです。

過去の経験から、私の中では「離人と聞けば虐待か折檻を疑え」が鉄則です。離人症の人は幼い頃に酷いトラウマを負っていると考えられます。

このケースもそうだろうな...私はお母さんから話を伺いながら予測を立てていました。なお、不登校に発展しているため必ずしも親からの虐待とは限りません。

新井「RUちゃんに離人症が出てきたのはいつからですか?」
お母さん「小学校高学年からだったと思います」

ということは小学校低学年あるいは幼稚園から虐待か折檻を受けてきたはずです。

新井「(鉄則を説明し)RUちゃんは虐待か折檻、あるいはそれに類することを受けてきていませんか?何か非常に強い対人関係のストレスを受けていませんか?暴力暴言などのストレスです」
お母さん「虐待はしていません。我が家ではそれはありません。」

と、明確に否定されました。そして思い当たる節を教えて下さいました。

・小1の時の先生が厳しくキレると教壇を蹴飛ばす。RUちゃんは怖がっていた。
・RUちゃんが幼い頃妹にちょっかいを出したときにお父さんが激怒。

それ以外にも異変として

・幼稚園の時にお母さんに「人ってなんで生きてるの?」と質問し、驚かせた。
・小学校のアルバムを捨てた。
・家族が出かけた写真の自分の顔を黒く塗りつぶしていた。
・高1の6月頃が一番荒れていた。部屋に鍵をかけ、部屋の鏡を割ったり、投げれるものを手当たり次第投げたり、本という本を引きちぎり破り。

もう特定できました。幼稚園です。RUちゃんは幼稚園の頃から強い対人関係のストレスを受け続けてきているはずです。
なぜか?強い対人関係のストレスを受けた子供は、自己の生存意義、存在意義に疑問を持つからです。

アルバムの件と高1での荒れ様からは、小中学校でのいじめが推測されます。あるいは顔や見た目のことをバカにされたか。

お母さんは「本人は『寝てばかりいる自分が嫌になった。学校へ行きたい』と言っています。助けていただけないでしょうか」

私は思い出しました。逃げたらゴミだ。

本人の意志を確認の上、カウンセリングを行うことにしました。


【1回目カウンセリング】

ご両親とRUちゃんが地方都市からはるばるいわき市までいらして下さいました。

一目お会いしてお父さんはお身体がどこか悪いだろうと余計なことを感じます。RUちゃんはモデル並のキレイさです。でもモヤがかかったようなしゃべり方で、精気が全然感じられません。

さて、RUちゃんにいつ頃から離人症的な異変が起きたのかを確認します。

一番古くは幼稚園の頃、片付けの時間に、初めて自分と外の世界に膜が張った感じがあったことを記憶しています。お母さんの情報より古いですね。

小1と小2では一旦症状は消えていたのですが、小3か小4になってまた頭の中に霧がかかったような、自分が傍観者になったような感覚が生まれ、これがその後ずっと続きます。

そして中学に入って急激に悪化が始まります。手を何回も洗わないと気が済まない、夢の中で生きているように感じる、街中で人が通りすぎると振り向かないと気が済まない、などが次々と発生。

中1の後半からは「自分は人と違う」と思い始め、気分が落ち込み、勉強にも部活にも身が入らなくなり、得体のしれない不安感、劣等感に苛まれます。

中1の秋初めて精神科へ行き、「強迫神経症と離人症で抑うつ傾向」と診断。処方された抗うつ剤で助かりはしますが、それ以上良くならなかったと言います。

5月中旬から突然スパッと学校へ行けなくなったのですが、なぜなのか自分でも全く分からないといいます。ここからRUちゃんは自分がいかにダメ人間であるかを切々と語ってくれました。

「なんで自分は学校へ行ってないんだろう、前の自分と今の自分はどこが違うんだろう、学校が頭のどこかへ行ってしまった感じで、たまに学校の手紙がウチに来るんですけど、そういうのを見ると無性に胸が苦しくなります。

他の人の名前があると自分が小さく見えて、頑張ってもその人には及ばない。何から手をつければいいのかも分からないし。具体的にどうやって行けばいいのかも自分ではわからないんです。

学校でひどいいじめとかシカトがあったわけではないんですけど、すごく自分がキライ。(学校へ行けていたときは)学校にいるだけで疲れちゃって、帰るとヘトヘトなんです。

自分は余裕がなくて、自分のペースが乱されたらダメ、みたいなのがあります。他の人が余裕があって、自分が型にハマって生きているような。

自分の能力にも限界があって、毎日進歩がないように感じます。毎日同じことをやって必死に現状を維持しているような感じがあって。

自分には心の開きがないんです。小さい頃から独りで遊ぶことが多くて、元々口数も少ないし。

外に目を向けずに自分の内面を見ているような感じがあって、友達関係も上辺だけで心を開くことがないみたいで、自分の殻にこもっている感じがあって、その殻を抜けだそうとするんだけどそれがすごく怖いというか、不安になってしまうんです。

結果的に自分は何も変わっていない。過去の自分にずっと足を引っ張られている...」

口上はまだ続きましたが、このあたりで私はメモをやめてしまいました(笑)。もういいでしょう。いかに自己嫌悪がヒドイかがよくわかりました。小学校のアルバムを捨てたのは、過去の自分を捨てたかったからだそうです。

新井「おっちゃんね、不登校専門になる前は、老若男女みんなの悩みをカウンセリングしてたんだよ。その時に離人症の女性がきた。自分と世界の間に分厚い30cmぐらいのガラスの壁があって、ものすごい苦しい、って言ってたんだ」

RUちゃんはうなづきます。苦しさが分かるのでしょう。

新井「でね、おっちゃんはその苦しさを直接消そうとしたんだけど、全然消せなかった。ガラスの壁も消せなかった。離人症の原因は後でわかった。

その女性が小学生の時、父親に店番を任されたんだ。けど小学生にちゃんとできる訳ないじゃない?妹の面倒も見ながらだったからミスをしたんだ。

帰ってきてミスに怒った父親は娘を家のどこかに縄で縛り付けて激しい折檻を加えたんだ。ま、拷問だね...どうもその頃から症状が出始めたらしい」

全員息を呑んでいます。

☆あなたに質問です。もし小学生の女の子がこんな恐ろしいトラウマの記憶を持つとどうなりますか?答えは簡単ですよね。
離人症の症状は、外界の強いストレスからその人を守り、遠ざけようとする脳の戦略である、と考えられます。脳の判断材料は過去の記憶です。潜在意識は関係ありません。ただ、哀しい判断ですね☆


新井「幼い頃に、誰でもいい、誰かからものすごく厳しく叱られたとか、君にひどいことをした人がいた、怖い人がいたとか、そういう記憶はない?」
RUちゃん「幼稚園の頃の記憶はハッキリ残っています。友達を亡くして、その子との会話も憶えています」
お母さん「この子はそういうことスゴイ憶えているんですよ」

アタリ。何度も書いていますが、不登校児の過去の記憶で鮮明なところには、経験上必ず強い対人関係のストレスが残っていました。

亡くなったのはOMちゃん。小1の時に事故で不慮の死だったそうです。
また、ゆり組のNN君に水筒を隠されて見つからなくて泣いたことがありました。

他にも様々な記憶が出てきます。

小1の時に同級生が「他の子がST先生(非常に怖い先生)に怒られているときにRUちゃんも"ママー"って泣いてたよ」と言ったのですが、RUちゃんは全く憶えていません。
小2の頃、担任の先生が、友達を怒り、RUちゃんはとばっちりを喰ってしまいます。

うーん、ぞろぞろ出てきます。まずは幼稚園の頃に集中して教えてもらいます。

まずはお父さんから。

妹さんが乳児のベッドに乗っているのをRUちゃんが面白がってイタズラしたら、お父さんがドアを蹴飛ばして「二度とこんなことをするな!」と激怒しました。

お父さんは「RUは赤ん坊の頃から私になつかず、手をあげたことはないんですが、乱暴なことをしてしまいました。何が心の傷になっているかわからないから、お父さんは構わないから今日全部先生に話しなさい」とおだやかにおっしゃいました。侠です。

次はお母さん。小1の頃授業参観の帰り、お母さんと友達のお母さんが話していて、RUちゃんのお母さんがその子に「勉強ができていいわね」とほめていました。それだけでRUちゃんは劣等感を感じていました。

話をOMちゃんに戻し、詳しい話を聴きます。

まず、RUちゃんはお絵かきが好きで、OMちゃんを誘って一緒にアニメキャラの絵を描いていたのですが、OMちゃんはうまく描けず「こんなのヤダ」と怒りました。RUちゃんはイザコザが嫌いで「ゴメンねゴメンね」と平謝り。

次に文房具について。OMちゃんが持っていたペンをマジックというのかペンというのかについて意見が食い違ったことが印象に残っています。

そしてお葬式。

RUちゃん「心理指導室の先生によると、あたしは過去にいろんなマイナスの感情が溜まっているから、潜在意識に良い働きかけをして気分をそこから良くするっていうことなんですけど、正直効果がなくて...
新井「ハッハッハ。僕も昔同じことをしました。で、ことごとく失敗しました(笑)。...当時はわからなかった。なぜ自分の学んできた心理療法が不登校に全く通用しないのか。でも、ある時気づいたんだよね...」

私は3人に潜在意識の裏側に"記憶"があること、記憶が裏から操っている黒幕であるという考えを説明しました。

新井「RUちゃんさ、小学校と中学でもこういう事があったんじゃないかな?」
RUちゃん「あ、思い出せばいくつでも出てきます」

一同苦笑。お母さんは「聞いてないよ~」。

新井「小学校の時は何個ぐらい?中学では?」
RUちゃん「20個以上。中学はもっと」

一同苦笑。

新井「それをやった人間は何人ぐらいいる?大体でいい。」
RUちゃん「小学校で15人ぐらい。中学でも同じぐらい」

一同苦笑。
こういう時って笑うしかないんですね。

小学校ではDKちゃんの記録を抜きました。子供がこんなに多くの人間からストレスを与えられたら、おかしくなって当然です。ただ高校では何もなかったようです。

RUちゃんは"学校でいじめがあったわけじゃない"といいました。つまり当人はいじめと認識していないようなことが強いストレスになっている、ということです。

ただし、この数は自分がストレスを与えた人間も含まれていたそうで、後に修正されます。

全ての出来事を私が聴き出していると、時間がいくらあっても足りません。小中学校での出来事は、人物単位でお家で書き出してもらうことにして、幼稚園の記憶に集中します。

新井「(不登校のピラミッド構造について説明し)こんなに大量にあったらとても2-3回で再登校、なんてできません。でも一つ一つコツコツ取り除いていくと、いつか必ず雲が晴れて光が見えます。やりますか?」

一同もちろんOK。
RUちゃんの幼稚園と小学校のストレスは今書いていてもややこしいな、と思うほどなのですが、一つ一つ丁寧に取り除いてゆきます。

離人症の症状を無くそうとしたり、気分をよくしよう、などと上辺だけを見ると、心療内科や心理指導室のように必ず失敗します。
モグラの穴ふさぎではなく、モグラそのものを退治します。


まずはお絵かきから。
思い出すと「責められている感じ。自分の心に圧力がかかる感じ」。
この奇妙な感覚と映像、音声の記憶を取り除きました。

次に文房具。
思い出すと「自分の世界に心地良く浸って黄昏ている感じ」。
これも同様に取り除きました。

次にOMちゃんの葬式。
RUちゃんも参列したのですが、その時のことを思い出すと
「胸の中でムシが騒ぐ。自分の中にもう1人自分がいて、自分の身体の中でうごめいている。頭の中が何かで詰まっていて、とても違和感がある。心が心臓の辺りで渦巻いている」。

実に奇妙な感覚です。でもTFTには関係ありません。この感覚と、葬儀の映像、音声の記憶を全て取り除きました。

最後にOM君ちゃんの顔と声の記憶。非常に鮮明に記憶しているのですが、これも同様に取り除きました。

次にNN君。

まずは水筒を探している場面から。
思い出すと「焦り、情けなさ、怒り、心配」が出てきます。それらの感情と映像、音声を全て取り除きました。

次に、家に遊びに来たNN君がRUちゃんのお金を盗んだことがあるそうです。かすかに記憶しているその貯金箱とNN君の映像を取り除きました。

ここでタイムアップ。相当RUちゃんはつかれたようです。よくがんばったことをねぎらい、次回扱う記憶についてお話ししておきました。


【2回目カウンセリング】

約2週間後、2回目のカウンセリングです。今回もはるばる遠くから3人でいわきまでお越し下さいました。

まず前回からの変化を確認します。私自身期待していませんでしたが、お約束なので。
すると、マシンガンのようにRUちゃんから、

・負担感が減った。心が落ち着いた。
・以前は調子の良い時、週1回外出できればいい方。電車に乗っただけで人目を気にしていた。今は自然に外出できる。
・意識のレベルが上がった。最近次元上昇したような気がする(RUちゃんの言葉そのままです)。過去の自分の皮を一枚脱いだような感じ。
・運動を自分でするようになった。
・読む本が変わった。今は普通のファッション雑誌などを読んでいるが、以前は犯罪とかオカルトとか、青木ヶ原樹海の本とか。
・昼夜逆転はまだ続いているが、自分で直そうとしている。

お父さんからは
・会話が増えた。おはようとかお帰りとか。笑顔を久しぶりに見た。学校のことも話せた。

お母さんからは
・家での会話が増えた。
・この日の3日前から変化があり、その日「お母さん、あたし今日はなんだか気分がいいから」と言ってそのまま外出。カラオケに3時間、しかも1人で。帰ってきたのはなんと夜になってから。
「1人で歌ってきた。これも経験だから」。お母さんはその時の娘の顔が忘れられないそうです。
・気分がイイ日は今までもあったが、長続きせずすぐに谷底へ。ところが今回は3日前から現在まで全く落ちていない。RUちゃんは「もう落ちる気がしない」。

RUちゃんは薬をまだ飲んでいますが、私の方法が彼女に適しているのでしょう。それにしてもまだ幼稚園時代の記憶しか扱っていないのですが...
過去の失敗、似たパターンを思い返すと、油断はできません。

まずはNN君の残りから。NN君の家に遊びに行った時の映像と音声の記憶、小6の時にクラスの班で一緒に何かの活動をした時の記憶を取り除きました。
小6の時に"膜が張っている"と初めて強く感じたそうです。

次はお父さんがドアを蹴飛ばした件です。これも映像と音声を取り除いておきました。

幼稚園時代の最後に、幼稚園の3つの部屋の映像を取り除きました。

休憩後、小学生時代に入ります。

小1の担任の女のST先生。教壇を蹴飛ばした場面の映像と音声、先生の顔と声の記憶を取り除きました。

次に小2のYK先生。ある子をYM先生が怒ったのですが、そのとばっちりをRUちゃんが喰い、かなり怖い思いをしたそうです。その場面の映像と音声、先生の顔と声の記憶を取り除きました。

カウンセリングが終了。

ここで前回お願いしておいた、書き出した紙を受け取りました。
誰といつどこで何があったかが書いてあるのですが、驚くべきことに、小学生時代のものは、何年何月何日何時かも書いてありました。なんて素晴らしい記憶力だ。


【3回目カウンセリング】

3日後、3回目のカウンセリングです。今回もはるばる遠くから3人でいわきまでお越し下さいました。

小2ではYM先生以外にはいません。小3の頃からまた膜が張ったような感じがあり、小4で親に話しますが「気にし過ぎ」と取りあってもらえませんでした。残念。こういうところが早期発見早期解決のチャンスなのですが...

小3と小4でのクラスメートは、色々出てきたのですが、ややこしく話しがどうも整理できないので後回しにしました。

次は小4のUG先生。この先生に怒られた時の映像と音声と、UG先生自身の顔、声、先生に対する威圧感を取り除きました。

小5ですが、ここからかなり重くなります。思い出すとものすごく苦しくなる出来事が2つありました。

マンション住まいだったRUちゃんですが、同じマンションに住んでいた赤ちゃんとお母さんに出くわしたとき、RUちゃんが開けたドアが眠っていた赤ちゃんのアタマにぶつかり、お母さんが赤ちゃんをゆすっても起きず、RUちゃんは怖くなって逃げ帰ったことがありました。

しかし気になっていたRUちゃんはその母娘が住んでいる(と思われる)階まで何度も足を運び、見回していました。

この出来事に対してRUちゃんはかなり負荷があり、強い圧迫感、後悔、恐怖、不安、心が重い、ゆううつ、暗い、心に穴があいたような、苦しい、アタマも重く痛い、もうイヤだ、などが次々と出てきます。

やっと解放される時が来ました。私はそれらの感情と、全ての映像、音声を一つ一つ取り除きました。

次に、RUちゃんは仲良かった友達2人と公園で遊んでいる時、中年の男性が近づいてきて、ワケのわからないことで怒鳴り散らしたそうです。怖くなった3人はすぐに家へ帰ったのですが、他の生徒は翌日学校を休んだほどでした。

これも全ての感情と、全ての映像、音声を一つ一つ取り除きました。

ここで、今どんな感じかと尋ねると、「過ぎた事ですから。くよくよしてもしょうがないと思うんです」。自動的に認知が良い方向に変わっています。なかなかイイ感じです。

これで3回目のカウンセリングは終了。


【4回目カウンセリング】

約1週間後、4回目のカウンセリングです。毎度はるばる遠くからいわきまでお越し下さいます。
今回は妹さんが同行し、カウンセリング中にお父さんと妹さんがハワイアンズで遊んでいらっしゃるそうです。いいですね。

前回からの変化を確認しましたが、昼夜逆転が修正されてきています。それ以外は大きな変化はなく、昼間にお母さんと一緒に買い物に出かけたりしていました。
ただ、あまり元気が無いようで、「気分が冷めている」といいます。落ち込みではないそうです。
まあ、いつもハイな方がおかしいですからね。

今回はこれまで取り除いた記憶が復活していないかチェックから始めました。どれも映像が1点程度に復活していたのでまた一つ一つ0点にしておきます。ただ、感情はもう全くありませんでした。

これをチェックしたら、小6です。

小6からは、直接嫌がらせをしてきた女の子が登場します。

SMちゃんという女の子が、RUちゃんの文房具を隠すなど、中学時代まで続く陰湿な嫌がらせを数回していました。

その嫌がらせの映像、音声、感情と、SMちゃん自身の顔、声、SMちゃんに対する感情「あの子に比べてあたしは劣っている」を一つ一つ丁寧に取り除きました。

ここで4回目のカウンセリングは終了。


【5回目カウンセリング】

1週間後、5回目のカウンセリングです。いつも遠くから3人でお越しくださいます。

前回からの変化を尋ねると、「学校へ行ける気がしてきました」といいます。今週月曜に学校へ行ける気がして、準備までしたそうです。

実際には行けませんでしたが、この1週間で、学校へ行き友達と楽しそうに話をしている夢を2回見たそうです。お母さんは「実際には行けなかったけど、その姿を見て涙が出そうになった」と喜んでおられました。

そして、勉強が幾分手につくようになったといいます。
高校生なので進学の心配があり、実は前回から1日5分でいいので勉強することをRUちゃんへの宿題にしていたのですが、毎日1時間程度なら疲れずに出来ているようです。
以前問題なく学校へ行けていたときに比べ、思考力も集中力も上がっている、といいます。

また、昼夜逆転は直り、今は正常なサイクルで23時就寝、朝はお母さんに起こしてもらい7時が起床出来ています。

食欲も出て、以前食べられなかった時の3倍は食べられるようになりました。これぐらいが健常な食事量だといいます。(でも顔の細さは変わらないんですね。特に太ったなどの印象はありませんでした)。

さらに毎日外出。お母さんが一緒に外出すると、お母さんが先に音を上げるほど元気に動きまわるそうです。

いつの間にか劣等感のことはもう口にしません。なお、私は"元気を出しなさい""前向きに考えなさい"などの言葉は一切かけていません。
 

今回が小学生編の最後です。

RUちゃんのしゃべり方がおっとりしているので、かなり攻撃を受けたようです。

小6からクラスメートで、「オマエ死ね」などと紙に書いていたOちゃん。
小6の時に「オマエ話になんね」、中2で「RU死ね」などと短いですが酷い攻撃を繰り返していました。修学旅行でも、他の子と一緒になってRUちゃんの悪い噂をバスの中でしゃべっていました。

これらの記憶の映像と音声、感情を一つ一つ取り除きました。

次は、お父さん。風呂に一緒に入っている時にお父さんがしゃべっているのにボーとしていたら「聞いているのか!」と怒られた記憶があるそうです。

またお母さんについても、他の子に「よくできるわね。うちの子はダメだから」とほめ、それを聞いていたRUちゃんが嫉妬した場面の記憶がありました。

それ以外にも細かいことまで、親についても掘り起こし、それらの記憶の映像と音声、感情を一つ一つ取り除きました。


ここから中学生編に入ります。

RUちゃんは「中学時代の話は親に聞かれたくない」といい、ご両親には席を外してもらいます。

中1で彼女にストレスを与えたのはAA君、ATさん、NNさんの3人。

AA君・・・RUちゃんに「ピノコ」というあだ名を付けました。もちろんバカにする意味です。これがあっという間に男子の間で広がりました。また、中3でも同じクラスになり、RUちゃんのことを「キモイ」「ダサい」などと嘲るように。

ATさん・・・「RUウザくね?」などと周りに言いふらしていた。手紙でRUちゃんのことをバカにする内容をクラスに回していた。

NNさん・・・ATさんとつるんで「オマエウザイんだよ」などと時折攻撃してきた。


AA君、ATさんに関するストレスの記憶を全て取り去り、NNさんにかかったところでタイムアップ。

実は来週テストがあり、このテストを受けないと進級ができないのです。彼女はテストを受けるつもりがあるといいます。

そこでわたしは内心ムリだろうとは思いながら、自分でできるアルゴリズムを教え、どういうときに使えば良いかを指示しました。

ここで5回目のカウンセリングが終了。


そして事件が起きました。

3日後、朝起きてから制服に着替え登校の支度をするものの、結局行けずベッドに転がってしまう娘を見てお母さんがついにバクハツ。
RUちゃんに「行かないなら期待してしまうから私服に着替えなさい!」と怒鳴ってしまいました。すると、RUちゃんは「学校行ってくる」と言って、そのまま家を出、登校したというのです。

別のカウンセリングを終え、連絡をお母さんから受けた私は「ヤバイ!」と感じました。

学校へ行けたのになぜヤバイのか?
あれほどヒドく重い状態だった子が今の段階で学校へ行くのは時期早尚なのです。まだ中学編の入り口しか除去していないのですから。

以前からあせるお母さんに「いつ学校へ行けるでしょうか、来月から行けないでしょうか」と聞かれる度に、こう答えてきました。

「年内にほんの少しでも行ければ御の字です。それほどひどい状態だったのです。今私がやっている方法は遠回りに見えて実は一番近道です。ちゃんと土台から直してゆきましょう、将来禍根を残さないために」。

ですが、やはり甘かった。

今の段階で学校へ行くということは、何かあればすぐに反動で崩れることが想像できます。何かとは何か?対人関係のストレスです。必ずしもそれでなくとも崩れるでしょう。

一番怖いのは、また崩れることです。崩れるとどうなるか?今後は二度と立ち上がれなくなります。

自分がしたことにうろたえてしまっているお母さんに、何をしなければいけないか、何をしてはいけないかを伝え、推移を見守ることにしました。

ところが大人たちの心配を他所に、帰宅したRUちゃんは「大丈夫だった。疲れもないし」とケロケロリン。

その後は遅刻しつつ相談室登校が続き、さらに3日後、朝から登校。

さらにさらになんとRUちゃんは「今後のカウンセリングはキャンセルしたい。タッピングも教えてもらったし」と言い出しました。

ここまで楽しませてくれる子も珍しい。カウンセリングは強制できませんが、ストレスをまだ半分ぐらいしか除去していないので、今止めるとまあ、以前に逆戻りでしょう。勝つと反省を忘れるのが人間です。

二度と自己嫌悪に苛まれないこと、安定に再登校し続けることを今後の目標に定め、カウンセリングを続けることで合意。


しかしお母さんにRUちゃんの尻を叩かせてしまいました。「行け」と言わなければならないようでは、私の負けです。

これまでの経験では、子供の気を学校へ向けようとし、学校へ行かせるために小細工を弄し始めた時点で敗北の予感がよぎり、まず間違いなく失敗しました。

その程度にしか回復させられないのは、カウンセラーである私がヘタクソだからです。「見守りましょう」としか言えない医師やスクールカウンセラーと同じ低レベルのカウンセリングしかできていないということになるからです。情けない。


【6回目カウンセリング】

2週間後、6回目のカウンセリングです。

その間、体育祭の練習で体力的に疲れて休んだのが1日だけ。それ以外は全く休みなし。
そして彼女は変貌を遂げていました。

・以前より活発になった。身体が軽く感じる。スポーツもしている。
・自己嫌悪は今は全くなし。
・ヒトから何かを言われても受け流す力がついた。気にならない。
・クラスのみんなも反応が良かった。

あまりの変化にオドロキの連続。私は記憶のストレスを除去しても自己嫌悪や劣等感、対人恐怖などの表面的な心の問題は残ると予想していたのですが...

以前は余裕がなく、変化に弱く、目に映るものを見ているだけでボーっと生きており、自分から何かをしよう、何かしたい、主張したい、という意識がなく同じ毎日を過ごしていたといいます。それが朝から登校して、一日普通に過ごして帰ってくるのです。

他にも色々話を聴きましたが、また記憶の除去開始です。NNさんの続きを行い、すべて記憶を除去。ここから中2に入ります。

中2で彼女にRUちゃんにストレスを与えたのは9人。

YDちゃん・・・「オマエ立場考えろよ、下なんだから。調子こきやがって」と上下関係をつけてきた。
STちゃん・・・「オマエキモイ、ウザ」
AKちゃん・・・合唱コンクールの練習でRUちゃんが遅刻したときに「オマエやる気あんのかよ」、RUちゃんのテストを盗み見て「こいつバカだったんだ」
ON君・・・修学旅行のバスの中でRUちゃんの悪口を女子と一緒に言い散らかした。

この4人のストレスの記憶を除去したところで6回目のカウンセリング終了。


【7回目カウンセリング】

2週間後、7回目のカウンセリングです。

RUちゃんは毎日学校へ行って、朝も家族で一番早く家を出るそうです。友達づきあいも増えて遊びにいくことも増えました。


新井「よくここまで。しかしよくちゃんと受け続けてくれたね」
RUちゃん「あたしだけがこんな状態なんだと思うと、理不尽だなって。このままじゃイヤだ。目の前真っ暗だったから。手当たり次第やれることはやってみたかったっていうか。先生の説明も納得できたし、やってみたら効果あったし。TFTってどうかなって思ってたけど、抗うつ剤の方が効くかなって思ってたけど、どうも最近違う、って思い始めました」

RUちゃんは当初抗うつ剤がようやく効いてきたと思っていたそうです。

お父さんも「今までいろんなことを続けてきたけど、このままではいけない、何かにかけなければ」という思いがあった、とおっしゃいます。

特にお母さんは

「2学期が始まったらガクンと低下して、これまでやってきたことは効果がなかった?と思い、必死でネットで調べたんです。

昔精神科のカウンセリングで、幼い頃のことが何か問題になっていることはわかってきたんですが、『忘れるにはどうすれば良いでしょうか』と尋ねると、『それをするのが私たちの仕事なんですけど...』と沈黙されて...

RUと一緒に過ごすと残酷で、非日常がものすごくつらくて。

もし何もしていなかったら今も同じ状態だったかと思うと、血の気が引きます」 

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お母さんの言葉は、不登校児を持つ親の叫びでしょう。わが子が暗い部屋でうずくまって何も出来ない反応もしない...誰が受け入れられるでしょうか。

私は自分で家族の問題を解決できますが、知識すらない方々の不安と恐怖は、察するに余りあります。

精神科の沈黙は笑えません。一生懸命の彼らの悩みはわかります。過去に介入できる心理療法が、いくつか存在することを知っていただけたらと思います。

"ああ癒された"ではなく、根本を解決する方法のことです。私はそのうちのひとつ、TFTを使っています。

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新井「えーと、RUちゃんみたいな子って、おそらく統計には出てこないだろうけど、実は大勢いるんじゃないかなと思うんですよ。カンですが、日本中に数万人規模でね。ベッドから起き上がることすらままならない、意識レベルが暗い、色々試したが効かない、でも身体に異常はない、っていう状態の子」

一同うなづきます。私はそんな状態の子に光を当てることができるのではと考え始めていました。それをお話しし実例公開許可をお願いしたところ、快諾いただきました。
 
ここからまた記憶の除去に入ります。前回の続き中2から一気に中3まで、出来る限り早くします。

ON君・・・前述の通り
FTちゃん・・・「キモイ」など。
KDちゃん・・・気分次第で攻撃してくる。「キモイ」「ブス」など。 
AKちゃん・・・「ガイジみたい」(ガイジとは障害児の略だそう)など平気で人を傷つける。

中3では4人です。

SG君・・・「オマエなんで学校くんの」と言った。
FJちゃん・・・RUちゃんの髪をナイフで切ろうとしたり、抜いたり。言葉も相当汚い。
SKちゃん・・・体育の時間にわざと砂をかけてきた。

ここまで一気です。各人物の個別の記憶の数が少なかったことが幸いし、1回で7人の記憶を除去することができました。しかし障害児をバカにする言葉を浴びせるとは。

登校は順調で警戒していた不安定要素も見つからないことから、次回は総チェックとし、特に幼稚園から小学校辺りまでで復活した記憶がないか、などを確認して、最後のカウンセリングにすることとなりました。


【8回目カウンセリング】

私は当初RUちゃんの状態のヒドさから、8-10回のカウンセリングでようやく明るい兆しが見えるだろうと予想していたのです。それがまさかの最後とは。だからカウンセリングは面白い。

約1ヶ月後、8回目のカウンセリング。

RUちゃん、今はもう体調も問題なく、落ち込みもありません。学校は順調です。

そして最後の記憶除去。幼稚園から高校まで総チェック、特に幼稚園は念入りに確認します。特に復活はなく、彼女が「ここをもう一度やって欲しい(恥ずかしさが出てきたので)」というある記憶を扱い、終了。


【結末】

お母さんとはその後時々メールで連絡をとりあって、RUちゃんの様子を確認していました。そして「進級できました。夢のようです。本当にありがとうございました」とメールをいただきました。


【重要ポイント】

・離人症、強迫神経症、抑うつの裏には強い対人関係のストレスがあった。
・このような重い状態になり、医学的な原因が見つからない場合、本人と親に強い改善の意志があれば、対人関係のストレスの記憶を除去することで大きく改善することができる。

...とカッコつけて結びたかった。

実はRUちゃんの物語には第二幕があったのです。それは、私が警戒を解いてしまった問題、自己嫌悪でした。これについては(拙著「不登校セラピー」第四章)にてお話ししましょう。


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