反応性愛着障害モデル
拙著「不登校セラピー」では、親が原因であった例として、「母親が我が子のノロマなところ・眼につくところなどを始終ヒステリックに責め立てていた」というケースをご紹介しました。
これは男子中学生の実例ですが、始終ヒステリックに責め立てられていた男の子はふさぎ込み、学校へ行かなくなりました。
ある日またそれをやられてたまらず家を飛び出し、祖母宅へ飛び込んだのですが、祖母が見かねてアドバイスし、子供自身が「お母さん、やめて」というと、お母さんは「ハッ」と我に返り、それ以降正常な関係に戻り、子供は徐々に気力を取り戻し、再登校を始めた、というのです。
なお、この子の不登校を最初に引き起こしたのは中学の教師から受けたトラウマです。
でもお母さんが悪いんではないのです。この家庭は母子家庭で、悲惨な離婚を経験していました。
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私はこれまで、「不登校は親が原因ではない」「子育ての問題と不登校の問題は別」という考えでした。
しかし一方で、「親が虐待や折檻、あるいはそれに相当するようなひどい言動を行っていた場合は、不登校に影響する」と発言してきました。
しかし親の行為と不登校との理論的な関係は私にもわかっていませんでした。
その裏で、こんな失敗が年に数件発生し、その原因と対策に頭を悩ませていました。
・・・学校でのトラウマを見落とし無く完璧に消し、数回は学校に再登校した。なのに、なぜかまた人目を避け、昼夜逆転し、外出できなくなり...結局何も根本的に改善されていない。・・・
当時はこれらの失敗の原因がわからず私も混乱してしまったのですが、「反応性愛着障害」という障害がすべての謎を解いてくれました。
以下、「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院」より引用
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幼児期または小児期早期の反応性愛着障害
A. 5歳以前に始まり、ほとんどの状況において著しく障害され十分に発達していない対人関係で、以下の(1)または(2)によって示される。
(1)対人的相互反応のほとんどで、発達的に適切な形で開始したり反応したりできないことが持続しており、それは過度に抑制された、非常に警戒した、または非常に両価的で矛盾した反応という形で明らかになる(例:子供は世話人に対して接近、回避、および気楽にさせることへの抵抗の混合で反応する、または固く緊張した警戒を示すかも知れない)。
(2)拡散した愛着で、それは適切に選択的な愛着を示す能力の著しい欠如を伴う無分別な社交性をいう形で明らかになる(例:あまりよく知らない人に対しての過度のなれなれしさ、または愛着の対象人物選びにおける選択力の欠如)。
B. 基準Aの障害は発達の遅れ(精神遅滞のような)のみではうまく説明されず、広汎性発達障害の診断基準も満たさない。
C. 以下の少なくとも1つによって示される病的な養育:
(1)安楽、刺激、および愛着に対する子供の基本的な情動的欲求の持続的無視
(2)子供の基本的な身体的欲求の無視
(3)主要な世話人が繰り返し変わることによる、安定した愛着関係形成の阻害(例:養父母が頻繁に変わること)
D. 基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた病的な養育に続いて始まった)。
病型の特定
抑制型 基準A1が臨床像で優勢な場合
脱抑制型 基準A2が臨床像で優勢な場合
(引用ここまで、太字強調は新井による)
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これと第一因子を組み合わせると、不登校の多くが理論的に説明できます。
ほとんどの失敗に、Cの(1)(2)(3)のいずれかに相当する家庭状況があり、子供は他者に対する過度の警戒を示すようになっていました。
学校でのトラウマの記憶をすべて除去しても、反応性愛着障害の抑制と警戒を引き起こした「病的な養育」の記憶を除去しなければ、不登校のパンドラ効果によって抑制と警戒が息を吹き返し支配的になり、学校へ行く、というより社会に復帰することが叶わないわけです。
この状態は、「社交不安障害」と呼べます。
さて、反応性愛着障害を含む愛着障害は、定義や概念が難しく(もともとイギリスでの研究が発祥)、また専門書には「反応性愛着障害は滅多に発症しない」と記されているモノもあります。
しかし私は不登校カウンセリングの現場に立ち続けた実感として、「軽度の反応性愛着障害は非常に多くの子供で見られる」と考えています。
強烈に歪んだ養育を施され、無残な状態にまでなってしまったお子さんを幾人か見たこともあります。
しかも、「軽度のモノは非常に多くの子供に見られる」と書いたように、これは特別でも特殊でもないのです。
それは、私が我が娘を幼稚園に送り迎えするときに、他のお母さんが自分の子を叩く、怒鳴る、だっこをせがまれ無視する、などを当然のように行っているのを目の当たりにしていること、
私自身、"もし私が心理学を修めていなかったら、おそらく短期的な自分のメリット(時間や労力など)のことしか考えられず、ガマンを憶えさせることを建前にして、Cの(1)(2)(3)のいずれかを娘にしてしまっていただろう"、と思えるからです。
そしてこの反応性愛着障害の最も怖ろしい点は、生涯にわたって対人関係に歪みを与え続けることです。
マリリン・モンローの生い立ちと破滅の人生をご存じでしょうか。
良い友人に恵まれない、結婚生活に恵まれない、いつも精神不安定...
そんな苦痛に満ちた人生を我が子に与えてしまうかも知れないのです。
幼稚園や小学校低学年でよく観られる、「母子分離不安による不登校(ママと離れるのがイヤで登校しない)」は、私がカウンセリングしたいくつもの実例から、おそらく反応性愛着障害が原因ではないかと私は考えます。





